腹圧性尿失禁(stress urinary incontinence; SUI)
女性、特に出産直後や40歳代後半以降の女性に多く、尿もれの患者さんの過半数をしめるのが腹圧性尿失禁です。
労作事、または運動時、もしくは、くしゃみ、または咳の際の不随意な尿もれです。
症状
腹圧性尿失禁は次のような症状や特徴があります。
- 咳やくしゃみをした時、笑った時などにもれる
- 重い物を持ち上げた時にもれる
- 走ったり、跳んだりした時にもれる
- 尿意がないのに、もれてしまうことがある
- 子宮摘出後に尿もれが始まった
- 妊娠中や妊娠直後に尿もれが起きたことがある
- 2回以上の出産(経膣分娩)の経験がある
- 閉経した
- 最近、太った
上記のように、腹圧性尿失禁では、お腹が力に入った時に尿がもれます。
骨盤底の筋肉が弱り、膀胱や尿道をきちんと支えられなくなり、尿道括約筋が傷んで尿道を閉じられなくなったために起こります。
重症になると歩行しただけでも尿がもれるようになります。
分類
腹圧性尿失禁は、膀胱頸部の位置によってレントゲン検査上3つのタイプに分類されます。
お腹に力がかかって尿もれが起こる、同じ腹圧性尿失禁でも、そのタイプによって治療が異なることがあります。
鎖尿道膀胱造影で立位正面像を撮影し、どのタイプかを診断します。
タイプ1 | 安静にしている時には正常な位置にあるが、 腹圧がかかった状態で膀胱頸部が恥骨下縁よりやや下がり、尿がもれる |
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タイプ2 | 安静にしている時には正常な位置にあるが、 腹圧がかかった状態で膀胱頸部が恥骨下縁より2cm以上下がり、尿がもれる |
タイプ3 | 安静にしている時にすでに膀胱頸部が開いていて、弱い腹圧で容易に尿がもれる |
原因
骨盤底筋・靭帯・結合組織の弛緩、筋肉のダメージで起こります。
- 妊娠・出産
- 肥満
- 更年期
- 加齢
- 便秘
- 荷重労働
骨盤底筋群は年をとると弱ってきてしまいます。
女性は、更年期や閉経前後になると女性ホルモンの分泌が低下するため、筋肉の組織に弾力やはりがなくなってきてしまいます。女性ホルモンの中のエストロゲンというホルモンが、尿道の筋肉にはりを持たせ、尿道の支えをしっかりとさせる役割をしているので、ホルモンの低下が、筋肉の弱り、骨盤底筋の緩みにつながります。
骨盤底機能障害(妊娠・出産、荷重労働、便秘などにより骨盤底筋群や膀胱・尿道周囲の靭帯が弛緩し、膀胱や尿道が骨盤内で不安定になること)が原因で、腹圧負荷時に、尿道閉鎖圧が低いために膀胱内圧が尿道内圧を容易に上回り、尿がもれます。尿道閉鎖圧が極めて低い場合を尿道括約筋不全といい、しばしば治療抵抗性です。
治療
行動療法では、骨盤底筋訓練や減量、薬物療法ではβ2アドレナリン受容体刺激薬の塩酸クレンブテロール(スピロペント®)がありますが、重症例やスポーツをする際には効果不十分なことも少なくありません。
女性ホルモンは効果がないとされ、使用は薦められません。
手術療法には中部尿道スリング手術と呼ばれる、中部尿道の裏面に約1cm幅のポリプロピレンメッシュを植え込む手術であるTVT(tension-free vaginal tape)手術とTOT(transobturator tape)手術があり、完治可能です。
両術式の成績は、ほぼ同等で約90%ですが、重度の尿道括約筋不全症例ではこれらの手術も効果がないことがあり、しいていえばTVT手術の方が客観的成功率が若干高いと報告されています。しかしTVT手術は腸管損傷や大血管損傷などの合併症がごく稀に起り得るという難点があります。ともに局所麻酔、数日の入院で手術できます。
日本では、重度な尿道括約筋不全による腹圧性尿失禁に対して、海外では使用されている尿道周囲注入物がひとつも認可されていません。脂肪由来幹細胞や筋由来幹細胞の自家移植などの治療が期待されています。
女性の尿もれでは、約7割が腹圧性尿失禁と言われます。
このタイプの尿もれは、体操や手術などの治療を行えば、完治できる可能性の高い尿もれです。
正しいケアをすれば、よくなる可能性が高いです。
行動療法
骨盤底筋訓練
比較的軽度の方は、骨盤底筋のトレーニングがすすめられる治療のひとつです。
外尿道括約筋を含む骨盤底筋の筋力をつけることで腹圧性尿失禁を改善します。
骨盤底筋訓練を2~3カ月続けると7割くらいの人に、効果が出ると言われています。
骨盤底筋のトレーニングについては「骨盤底筋訓練」ページをご覧ください。
減量
肥満がある人では減量すると腹圧性尿失禁が改善します。
最近太った人で、同時に腹圧性尿失禁が始まったような場合は、元の体重に戻すと、元の状態に戻ります。
薬物療法
日本で腹圧性尿失禁の治療として認められている唯一の薬は、B2アドレナリン受容体刺激薬のクレンブテロール塩酸塩「スペロペント®」です。
もともとは、気管支喘息の患者さんの気管支をひろげるために使われていましたが、膀胱排尿筋をゆるめて膀胱をリラックスさせ、外尿道括約筋を収縮させて尿道を閉じる働きがあることから、腹圧性尿失禁の治療に使われるようになりました。
手指のふるえや動悸、気分が悪くなる、頭痛などの副作用が出ることがあります。副作用がでたら、軽度の手指のふるえ以外はいったん薬を中止し、主治医に相談しましょう。
手術療法
手術ができるのは腹圧性尿失禁だけです。
身体に負担の少ない手術として、TVT手術やTOT手術があります。